中国において「割り込みに注意する店員」がいたという話

中国において「割り込みに注意する店員」がいたという話

2021/10/14

とあるスーパーで、夫婦で買い物をしていた時のことです。
中国では野菜や果物などは計り売りが主流で、スーパーなどでは自分で選んだ野菜を計量して値札をつけてもらう必要があります。最近はセルフでできるようになっていることもありますが、多くの場合は店員が客から順番に野菜を受け取り、シールを印刷しては貼り付けていくというスタイルが主流かと思います。
もちろん客が多い時にはこの計量所も混雑するので、列に並んで待つ必要があるのですが、ここで問題になるのが列への割り込みです。並んでいる列をガン無視して計量している店員の真横に立ち、さっさと自分の計量だけ済まそうとする人がけっこういます
僕は日本的「スジ」の価値観を過度に内面化しすぎているせいでしょうか、割り込みを見ると無性に腹が立ってしまいます。なので、見かけたら「請排隊一下吧」(並びましょうよ)などと注意するようにしています(昔はもっと調子に乗っていたし気が短かったので「排隊!」と声を荒げたりしていましたが、嫁に諌められてからやめました。今では反省しています)。
その日も計量所に並んでいると、僕ら夫婦の晩まであと2組くらいまできたところになって横から年配の女性がフラ〜っと歩いてきて、計量台の上に自分の持ってきた大根か何かを置こうとしました。
僕は心が狭いので「やれやれ、またか」というような気持ちになり、「請排隊」を言おうと「q」まで声が出かかったのですが、その日見られた光景はいつもと少し違いました。
僕が声を上げるよりも先に、計量を担当していた店員(30代くらいの女性)が、そのおばあさんに優しく「需要排隊哦」(並んでくださいね)と声をかけたのです。それを言われたお婆さんは恥ずかしそうに大根をひっこめ、すごすごと列の最後尾に並び直しました。
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中国においては割り込む人が多いということと同時に、店員の方も割り込んだ人に普通に対応するという習慣があるように思います。中国でも割り込みは良くないこと、恥ずかしいこととされていますが、この「割り込まれた方も気にせず対応する」ということがあるため、なかなか割り込みがなくならないという現状があるように思っていました。
ちなみに割り込みをされても周囲があまり気にしない、という現象は僕のnoteを読んでくださっている人なら毎度お馴染みの、田中信彦先生による「『量』の世界に生きる中国人」という理論でおおむね説明がつきます。要は「1人や2人割り込もうが、自分への影響が少ないと思ったなら別に怒ったりしない」ということなのですね。だから店員も割り込みに対して「どうせ大勢には影響しない」ということで普通に対応するのです。
これに関してはちょうど田中先生の書かれた個別記事があったのでぜひお読みください。
しかし、その日見たのは紛れもなく「店員が割り込みを毅然と拒否し、並び直すように諭す」という光景でした。正直、いままでに中国でこのような光景を見たことはなかったと思います。
マナーの向上が著しいと言われる中国ですが、僕がいままで中国に暮らして生きて以来、これ以上にいわゆる「中国人のマナー向上」というか、意識の変化を感じさせる出来事は、ちょっと思い当たりません。たかだか数秒のことでしたが、自分にとってはそれほど衝撃的なことでした。
いま自分は、中国の変化の真っ只中にいるのだということを強く感じる出来事でした。これからもどんどん中国の人々は変わっていくのでしょう。
こういう細かいところからその変化を見つけて行けたらいいなと思います。

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