少し前に、中国の教育にまつわる規制が大きく話題になりました。子どもの負担を減らそうという主旨のもと、宿題の量の削減や学習塾の営業規制が大きく進められています。僕のnoteでも何度か取り上げました。
これが大きく話題になったのが夏頃で、規制の厳しい運用が始まってそれなりの時間が経ちました。
そんな中で、教育事業に携わる中国人の友人の話を聞いて興味深いことがありましたので、このnoteでシェアしたいと思います。
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忘れられがちですが今回の規制で強い規制の対象となったのは小中学生向けの学習塾などで、高校生向けに関しては特に規制が入っていません。僕の友人が携わっていたのも高校生や大学生に向けた語学教室なので、幸いにして大きな影響を受けることはなく、いまでもほぼ通常通り営業しているそうです。
ただ、やはり小中学生向けの学習塾などは場所によって壊滅的な被害を受けていて、その友人の周囲では潰れそう、もしくはすでに潰れてしまった会社や教室もたくさんあるといいます。
そういったところは学校の主要科目以外(絵画、スポーツ、音楽など)の教室に鞍替えして生き残りを図るくらいしか生き残りの道がなく、苦しい思いをしています(たまに「美術教室」と銘打って結局は勉強を教えているような、危ない橋を渡っているところもあるようですが)。職にあぶれた教師の人も相当数います。業界はやはり、なかなか大変なようです。
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しかし、僕が興味深いと思ったのは、その友人の言っていたこのような言葉です。彼には小学生の娘がいるのですが、こんなことがあったそうです。
「自分も娘を夏期講習に通わせるために近くの塾に前金を2万元(≒36万円)くらい払ってたんだけど、ほとんど授業もしないうちにその塾が潰れちゃって、1元も返金されないんだよ。悔しいし腹が立つけど同業者として気持ちはわかるから、なんか催促もしにくいし、諦めることにした」
なるほど、突如として学習塾が閉鎖に追い込まれたことにより、授業料が返ってこないトラブルが発生しているのですね。警察や裁判所に相談しないのか、と聞いてみましたが、戻ってくるかどうかわからないし、戻ってくるお金以上の労力がかかるだろうからやらないとのこと。
似たような話って他にもありそうだな、と中国最大のサーチエンジンである百度で調べてみると、「培训班(学習塾) 倒闭(倒産)」と検索窓に入力した時点でさっそく「培训班倒闭了退费怎么办」(塾が閉鎖したんだけど、返金はどうしたらいいの?)などの予測ワードがわんさか出てきました。予想通りです。
やはり同じような話はあるようで、お金が返ってこないトラブルに関する記事がたくさん見つかりました。中には10万元(≒170万円)払って数回しか授業を受けていないのに塾が営業停止になって泣き寝入り、というようなケースについて書いている記事もあります。
学習塾規制の話を聞いた時には友人が働いていることもあって経営側の心配ばかりしていましたが、考えてみればこういうこともあるよな、と思わされた話でした。
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この話を聞いて思い出したのは、中国にて悪名高い「前払いからのドロン」コンボです。
中国で美容院やマッサージ店、トレーニングジムなどを利用すると、前払いの会員サービスなどを勧められます。たとえば美容院なんかだと、「年間カットパーマ染色マッサージ美容スパやり放題! 今なら2,000元払えば6,000元のサービスが受けられる!」とか、トレーニングジムなら「买一年送一年(年会費1年分払えば おう一年無料)」など、ホンマかいなと思うようなサービス内容がポスターで貼られたりしています。
こういったものは多くの場合、単価が安く薄利多売なこれらの業態において、とりあえず目先の資金を確保するために売られることが多いようです。特に開店したばかりの美容院などに行くと、こういったサービスの会員になれという勧誘がしつこいくらいに行われます。
ちゃんとお金を払った通りのサービスが受けられるのならまだしも、場合によってはいくらもサービスを受けないうちに店が閉店してしまったりして、払った分が丸ごと損になるケースも後を断ちません。請求して返金してもらえればいいですが、それも難しいようです。なかには資金を集めるだけ集めて、まとまった金額になったら夜逃げするためだけに見せかけで改行する悪質な業者もいます。
このへんは中国人の間でも警戒されており、うちの中国人の嫁は僕に「あんたは外国人なんだから騙されないように気をつけろ」「美容院の会員券だけは作るな」と、まるで日本における「連帯保証人にだけはなるな」のような口調で強く戒めてきます。
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まあ、学習塾の場合は規制が入りやむを得ず閉鎖、というところが多いのでしょうが、こちらの商売はキャッシュフローをギリッギリで回していたりするので、こういったことが容易に起こるのだと思います。いやはや、中国で商売をするというのも、客としてサービスを受けるのも、なかなか一筋縄ではいかないところがありますねえ。
そんなわけで、教育規制が思わぬ形で影響を出しているんだな、と感じた話でした。
それではまた。